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仙台地方裁判所 昭和59年(モ)1037号 判決 1989年2月01日

債権者・被申立人

有限会社金松堂

右代表者代表取締役

伊勢久治

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

佐藤興治郎

債務者・申立人

後藤洋志

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

川原悟

川原眞也

新里宏二

主文

一  債権者債務者間の仙台地方裁判所昭和五九年(ヨ)第二七五号不動産仮処分申請事件について同裁判所が昭和五九年五月二九日になした仮処分決定を取消す。

二  債権者の本件仮処分申請を却下する。

三  申立人の特別事情による仮処分取消申請を却下する。

四  訴訟費用は債権者・被申立人の負担とする。

五  第一項は仮執行をすることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  仮処分異議事件

(債権者)

主文第一項記載の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

(債務者)

主文第一、第二、第四項同旨

二  特別事情による仮処分取消申請事件

(申立人)

本件仮処分決定は、債務者らにおいて保証を立てることを条件として取消す。

主文第四項同旨

(被申立人)

主文第三項同旨

訴訟費用は申立人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  仮処分異議事件

(申請の理由)

1 当事者

(一) 債権者有限会社金松堂(以下「債権者金松堂」という。)は、特別名勝松島で料理飲食店及び土産物販売店を営んでいる会社。債権者伊勢久治、同伊勢しづ子、同伊勢龍夫(以下「債権者三名」という。)は同会社の取締役であって、別紙目録(二)記載の建物(以下「金松堂建物」という。)の持分各三分の一を共有し、これを債権者金松堂に賃貸している者、債権者金松堂はその一階を土産物店舗、二、三階を料理飲食店、四階を従業員室、居室等に使用しているものである。

(二) 債務者後藤洋志は、金松堂建物の南側に所在し、宮城県が所有し、同県公園管理事務所が管理する松島海岸公園広場の一部を賃借し、同地上に別紙目録(三)記載の建物(以下「旧建物」という。)を所有して「サントリ茶屋」の名称で飲食店を経営する者であるが、昭和五九年四月から別紙目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築を開始した。

(三) 債務者株式会社遠藤組は、債務者後藤から本件建物の建築工事を請負い、これを着工している。

2 被保全権利

(一) 自然的文化的環境権

本件建物及び金松堂建物の所在する地域は、古来日本三景の一つとしてうたわれ、松島湾とこれに浮かぶ無数の島々という多島海の美しい景観で名高い松島にあっても、最も風致景観に優れ、自然的かつ文化的な環境の保持が特に要求される地域であり、かかる趣旨は行政法規の点にも現われている。即ち、本件建物は、従来県公園松島とされていたものが、昭和三一年に都市公園法制定とともに、同法二条及び宮城県県立都市公園条例に基づいて指定された都市公園松島公園地内にあるほか、本件建物及び金松堂建物は、文化財保護法六九条に基づき文部大臣が「特別名勝松島」として指定した地域内にあり、更には、自然公園法四一条及び宮城県自然公園条例により県立自然公園として指定を受けた地域に含まれ、厳しい法規制を受けている。

しかも、松島海岸に面する都市公園内の施設は、必然的に松島湾に浮かぶ多島海の美しい景観を確保し、逆に、松島湾から松島海岸等の景観と眺望を確保する見地から乱開発が制限されて、開発も最小限にとどめられてきており、建物は景観と眺望を阻害しないように平家建で、かつその屋根の形態も主として陸屋根とされる慣行が確立し、法慣習的な価値を有するに至っているというべきである。

こうした行政法規による環境規制に基づき、これまで松島の自然的文化的環境の現状変更は厳しく制限され、特に、環境規制違反に対しては法的に強制的な原状回復命令が発せられるとともに、公園計画による自然公園事業の執行として、自然的文化的環境の保護と利用が図られ、また、自然公園利用のための県立公園として環境公物管理による厳格な規制を受け、自然的文化的環境との調和が厳格に維持されてきたのである。即ち、国及び地方公共団体並びに公園便益施設経営者らは、前記各行政法規の規定のとおり、松島の自然的文化的環境を保持することを義務付けられ、また、その環境破壊行為に対しては職権により、あるいは広く争訟により是正の途が開かれているのである。以上の事情に照らすと、本件建物及び金松堂建物の所在する地域については、前記のとおり文化財保護法、自然公園法、都市公園法及び宮城県立都市公園条例に基づき社会法的、環境法的視点から、既に国民共通の財産として、個人がかかる自然的かつ文化的な環境を享受することが保護の対象とされ、権利として確立した状況に至っているというべきである。債権者金松堂はかような場所において料理飲食店及び土産物店を営む会社であり、債権者三名は金松堂建物の所有者であるとともに経営者として、かかる環境権を有するものである。

(二) 眺望権

債権者金松堂は昭和一二年頃から債権者伊勢久治の先代金松が開始した土産物店の営業を昭和三七年一二月二七日有限会社組織にしたもの、債権者三名は、昭和四九年七月二五日金松堂建物を建築してこれを共有しこれを前記のように債権者金松堂に賃貸し、同債権者は以来料理飲食店の営業も始めたものである。金松堂建物の南側は幅約四メートルの道路を隔てて本件建物に面しており(なお、西側は、県営駐車場に面している。)、二、三階の料理飲食店の店舗には、幅9.7メートル、高さ二メートルの窓がある。そこからの眺望は、前述した松島湾に浮かぶ島々とコバルト色の海、ヨット、モーターボートなどの美しい景観に加え、史跡として名高い五大堂や美しい福浦橋や雄島、双子島、海岸公園等の景観がパノラマ状に望めるのであって、松島における最良の地に存するということができる。しかして、松島を訪れた観光客は、かかる名勝の眺望を楽しみながら飲食し、休憩をするのであり、債権者金松堂はその場を提供しているものである。

このような状況の下、債権者金松堂は昭和四九年に料理飲食店を開業して以来、一貫して名勝松島の景観眺望を生命として料理飲食店を営業し、また、債権者三名はこれを経営する者として、いずれも眺望の利益を享受する権利を有するものである。

3 債務者の眺望妨害行為

(一) 債務者後藤は昭和五九年四月一〇日頃から債務者遠藤組に請負わせて旧建物を取壊して、新たに本件建物を着工するに至り、工事は棟上げを終え、屋根葺工事に入る状況にある。

(二) しかしながら、本件建物が完成すると、その高さは、7.4メートルとなり、債権者金松堂の二階店舗の中心部分からの視界が遮断され、松島湾及び海岸公園の正面の美しい眺望が阻害され、パノラマ状の眺望が完全に分断されて、わずかに左右の眺望が残るのみとなり、特に双子島及び雄島の景観が害され、更に三階店舗からの眺望も、海岸の美しい船着場や公園の眺望が阻害されることになる。

債権者金松堂の本店舗食堂の営業については、調理室が二階にあって、エレベーターがないことから、主として二階が利用され、三階は補助的に利用されるに過ぎず、収入の九〇パーセントを二階での売上で占めているところ、債権者らは、本件建物の完成により眺望が阻害されると、店舗から見える眺望に依存する料理飲食店の経営上甚大な損害を蒙ることになる。

また、前述のとおり、松島海岸に面する都市公園内の施設が陸屋根の平家建とされる慣行が法慣習的な価値を有しているところ、二階建の本件建物の建築は右慣行に反するうえ、本件建物が建築されると、金松堂建物と同様、本件建物の北側に並ぶ他の料理飲食店等からの松島湾などの眺望も害されるばかりでなく、他の公園便益施設の改築の先例となり、他の建物も本件建物に追随する結果、行政側も二階建を許可せざるを得ないことになり、この地域の美観維持、眺望確保が崩壊して壊滅に至ることは明らかであって、公益上も著しい損害が生ずるというべきである。

4 本件建物建築工事の違法性

しかも、本件工事は、以下のとおり行政法規に違反してなされたものであり、その違法性は明らかである。

(一) 都市公園法違反

(1) 松島は明治三五年九月九日宮城県告示により県公園とされたが、その後も周辺地域が徐々に松島公園に編入され、更に昭和三一年一〇月に都市公園法が施行され、同法附則二条の経過規定により、同法二条に定める県立都市公園となったものである。本件建物の所在地は、右都市公園中都市計画決定を受けた松島海岸公園地域内にあり、本件建物を建築するにあたっては、都市公園法、同施行令、同施行規則及び県条例の規制を受けるところ、本件建物の設置許可申請は同法五条二項及び県立都市公園条例に基づき同法二条二項七号に定める公園施設のうちの便益施設(軽飲食店)としてなされている。しかるに、公園施設の設置基準に関しては、都市公園法施行令八条五項によって、「都市公園に販売又は軽飲食店を設ける場合においては、売場又は出入口は都市公園の外周に接しないようにしなければならない。」と定められているにもかかわらず、本件建物は都市公園の外周にある県道に接して出入口が設けられており、同条項に違反するものである。

(2) 本件の松島海岸公園地は特別名勝松島の海岸公園を形成し、風致享受の用に供されているのであって、観光客らの休憩、飲食、観賞は公園地内に接するホテル、レストラン等で十分まかなわれ、公園地内に本件建物を設置する「便益性」は存在せず、法二条二項に定める都市公園の効用を全うするために設置される必要性は全く希薄である。しかして、本件建物設置の目的が単なる利潤追及のみであることは明白であるから、都市公園法五条一項、二項の趣旨に反し、本来公園施設として許可を与えるべきものではなく、その許可は裁量権の逸脱乃至濫用にあたる。

(3) 更に、債務者後藤は、本件建物建築に際しては、旧建物の老朽化を理由にして許可の申請をしているが、旧建物自体は老朽化しておらず、かかる申請による許可を受けた債務者後藤は、都市公園法一一条一項三号の「偽りその他不正な手段により、この法律の規定による許可を受けた者」に該当し、本件建物の工事は中止、除却等の処分の対象となる。

(二) 自然公園法違反

更に、松島海岸公園18.2ヘクタールが、都市公園であると同時に、県立自然公園条例五条一項により県立自然公園松島の海岸地区公園として決定された(昭和四二年七月一一日宮城県告示第五七六号)地域内にあることから、本件建物は、都市公園法一八条の二後段の「県立自然公園利用のための施設」に該当し、その設置管理については、同法五条二項及び四項が適用されないことになる。したがって、公園施設を設け又はこれを管理しようとするときは、都市公園法及び前記県立自然公園条例に基づく公園管理者である宮城県松島公園管理事務所長(以下単に「公園管理事務所長」という。)の許可又は許可事項の変更許可を要する事項ではなく、工作物を新築、改築又は増築する場合として、県知事の公物管理権限に属する県立自然公園条例一〇条の許可(特別地域に指定された場合)又は同条例一一条の届出(特別地域以外の普通地域の場合)が必要となる。しかるに、本件においては、債務者後藤が公園管理事務所長に対し、従前の知事の設置許可について許可事項の変更許可申請をし、同所長により昭和五九年一月一〇日許可されたのみであって、自然公園法令上の許可乃至届出を欠いており、違法である。

(三) 文化財保護法違反

本件建物は、前記のとおり特別名勝として指定された地域にあるため、現状を変更し又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化財保護法八〇条一項により文化庁長官の許可が必要であるが、右許可は同法九九条一項二号により、文化庁長官から宮城県教育委員会に対して、「重大な現状変更又は保存に重大な影響を及ぼす行為の許可及びその取消し」を除いて権限を委任することができるとされている。しかして、その権限の具体的委任は、文化財保護委員会委員長の「都道府県教育委員会への権限の委任について」の通達(昭和三九年六月二七日文庶第四四号、第四五号)によってなされており、右四四号に、建物の場合は、「人家密集地における木造又は簡易な建物の建築面積七十平方メートルを超えない新築、増築又は改築」に限り委任しているところ、右の「人家密集地」とは、同四五号によって「住宅等が密集してすでに市街地を構成している地域で、新たにその地域内にはこれらと同程度の小規模な住宅等以外には建築する余地のない地域をいう。」と定められている。

ところで、本件建物の設置は、昭和五九年三月一五日宮城県教育委員会により許可されたが、本件建物の所在する地域は、到底「人家密集地」とはいえないうえ、「同程度の小規模な住宅等以外には建築する余地のない地域」にもあたらず、本件建物の面積は83.41平方メートルというのであるから、その許可は教育委員会に権限の委任された事項に入らないことが明らかであって、これを無視した教育委員会の許可は違法である。

5 保全の必要性

債務者らの本件工事は急ピッチで進行し、本件建物の完成は遠くない状況にあるが、本件建物の完成により、債権者らの享受する前記自然的文化的環境権乃至眺望権は害され、本案訴訟の判決を待っていては債権者らに回復し難い損害の生ずることは明らかであるから、本件工事禁止の仮処分の必要がある。

6 よって、前記自然的文化的環境権乃至眺望権に基づいて本件建物のうち二階部分の建築工事を禁止し、その続行を禁止した本件仮処分決定は正当であるから、その認可を求める。

(申請の理由に対する債務者の認否及び反論)

1 申請の理由1の事実は認める。

2(一) 申請の理由2(一)の事実中本件建物が自然公園法四一条及び宮城県自然公園条例により県立自然公園として指定を受けた地域に含まれ自然公園法の適用を受けること、松島海岸に面する都市公園内の施設の建物が、平家建で、主として陸屋根とされる慣行が確立していること及び右慣行が法慣習的な価値を有していることは否認し、自然的文化的環境権に関する主張は争い、その余は認める。

(二) 同2(二)の事実中債権者金松堂の沿革、金松堂建物の建築所有関係、債権者金松堂の料理飲食店の営業の開始の事実は不知、債権者金松堂の建物の二階、三階店舗からの眺望に関する部分は否認し、眺望権に関する主張は争う。

3(一) 申請の理由3(一)の事実は認める。

(二) 同3(二)の事実中本件建物が完成すると、その高さが最も高い箇所で7.4メートルとなることは認め、債権者金松堂の本店舗における食堂の営業状態は不知、その余の主張は争う。

4 申請の理由4につき

(一) (一)の(1)の事実中本件建物の出入口が都市公園の外周にある県道に接して設けられていることは否認し、その余は認める。(一)の(2)の主張はすべて争う。(一)の(3)の事実中債務者後藤が旧建物の老朽化を理由として本件建物建築の許可申請をしたことは認めるが、その余は争う。

(二) (二)の事実中昭和四二年七月一一日宮城県告示第五七六号が存在すること及び債権者が本件建物設置許可申請にあたり、公園管理事務所長に対し、従前の知事の設置許可に関する許可事項の変更許可申請をし、昭和五九年一月一〇日同所長がこれを許可したことは認め、本件建物が県立自然公園内にあり、「県立自然公園利用のための施設」であって、その建築許可等の権限が県知事に属することは否認する。

(三) (三)の事実中現在宮城県教育委員会への具体的委任の内容が「都道府県教育委員会への権限の委任について」の通達によっていること、本件建物の存する地域が、「人家密集地」に該当しないこと、本件建物の建築面積が83.41平方メートルであること及び本件建物建築の許可が教育委員会に権限の委任された事項に入らないことは否認し、その余は認める。

(債務者の主張)

1 眺望の利益とは、本来たまたまそこに建物が存在しなかったということの反射的利益に過ぎず、権利として完全な形態でその享受が満たされるものではなく、他の競合する利益と調和する限度においてのみ、満たされるべきものである。しかして、本件においては、以下のとおり、本件建物が債権者らの受忍すべき範囲内にあることが明らかであり、被保全権利を欠くものといわなければならない。

(一) 本件においては、松島湾という保護に値すべき景勝は一応存在するものの、本件建物は飲食店、土産物店などが軒を並べる人家密集地にあり、松島にあっても景観を保護すべき必要性に乏しい地域にある。

(二) また、およそ松島を訪れる観光客のうち、特に景勝を楽しもうとする客は、主として湾内遊覧船等を利用しているのであり、債権者金松堂は、そのような目的で集まった客に単に飲食の場を提供しているにとどまるのであって、眺望と債権者金松堂の営業の関連は乏しいところ、金松堂建物からの眺望は、本件建物によって二階部分において一部遮られる程度で(名勝として名高い五大堂や福浦橋は十分眺められる。)、三階部分には全く影響がない。しかも、債権者らは一階で土産物店も営んでおり、これによる収益も相当見込まれるのであって、この程度の眺望阻害によって、債権者らの営業利益に影響が出るとは考えられない。

(三) 他の公園施設が二階建にならなかったのは、五大堂に近い等、広く景観を確保しておくべき場所に存在するからであるが、本件建物は松島海岸公園の北はずれにあり、その背後には小さな丘、藪があって本件建物の高さ程度の樹木が生えているという状況にあり、他の公園施設とは異なって二階建にすることに問題はない。

2(一) 本件建物の所在する地域は、自然公園法及び自然公園条例の適用を受けない。

前述のとおり、本件建物は県立都市公園内にあるところ、自然公園法四一条の規定を受けて、宮城県でも昭和三四年七月一六日県立自然公園条例が制定されたが、同条例の附則三条では「この条例施行の際、現に県が管理している県立公園(都市公園法二条に規定する都市公園を除く。)はこの条例による自然公園とみなし、その区域は、この条例による自然公園の区域とみなす。」と定められ、都市公園法二条の都市公園は、県立自然公園に含まれないことが注意的に規定されている。

これに対し、債権者らの主張する昭和四二年七月一一日宮城県告示第五七六号は、あたかも本件都市公園中都市計画決定を受けた松島海岸公園地域(18.2ヘクタール)が、県立自然公園松島の一部に含まれるかのごとき告示をし、市販の地図も同様の記載をしているが、右告示は誤った告示であり、法的には条例に抵触し無効である。

仮に、本件都市公園が自然公園に含まれるとしても、県立自然公園条例一一条により、知事が特別区域に指定しない地域(普通地域)にあっては、同条例施行規則二〇条の基準を超える工作物の新築、改築、増築等には知事に対する届出が必要であるところ、同規則二〇条一項イによると、高さ一三メートル、延面積一〇〇〇平方メートルを超える場合に届出が必要とされていて、本件建物については届出が不要であるから、自然公園法令上違法の問題は生じない。

(二) 特別名勝松島における文化庁長官の文化財保護法八〇条一項の許可権限は、昭和五五年三月一三日文化庁告示により「重大な現状変更又は保存に重大な影響を及ぼす行為」を除いて、教育委員会に委任されているが、右委任の具体的内容は特別名勝松島を「特別保護地区」「第一種保護地区(市街化区域及び住宅密集地を含む)」「第二種保護地区」「要指定解除地区」に区分し、そのうち「第二種保護地区」「要指定解除地区」「第一種保護地区の中の市街化区域及び住宅密集地」における許可の権限を宮城県教育委員会に与えるものであり、右告示により、債権者らが主張する「都道府県教育委員会への権限の委任について」と題する通達の内容は実質的に変更されているのであって、本件建物の現状変更が「重大な現状変更又は保存に重大な影響を及ぼす行為」でない限り、その許可は宮城県教育委員会の裁量に委ねられているのである。しかして、同委員会は、本件建物の現状変更につき、(1)本件建物が右告示により示されたとおり、「第一種保護地区の中の市街化区域及び住宅密集地」に存すること、(2)本件建物の建築が「重大な現状変更又は保存に重大な影響を及ぼす行為」に該当しないと判断したことにより、許可を与えたのであり、右許可に瑕疵はない。

仮に、本件都市公園が県立自然公園に含まれるとしても、県立自然公園条例一一条により、知事が特別区域に指定しない地域(普通地域)にあっては、同条例施行規則二〇条の基準を超える工作物の新築、改築、増築等には知事に対し届出が必要であるところ、施行規則二〇条一項イによると、高さ一三メートル、延面積一〇〇〇平方メートルを超える場合に届出が必要とされており、本件建物については届出が不要となる。

(債務者らの主張に対する認否)

いずれも争う。

二  特別事情による仮処分取消申請事件

(申請の理由)

1 仙台地方裁判所は、被申立人の申請(昭和五九年(ヨ)第二七五号事件)に基づき、昭和五九年五月二九日、本件建物のうち二階部分の建築工事を中止しこれを続行してはならない旨の本件仮処分決定をなした。

2 しかしながら、本件仮処分決定については、以下のとおり特別の事情が存する。

(一) 金松堂建物の眺望が阻害され、被申立人に損害が生ずるとしても、その程度は、前記一(債務者の主張)1(二)で述べたとおり、わずかに過ぎない。

(二) 他方、本件仮処分決定により申立人後藤は甚大な損害を蒙る。

即ち、申立人後藤は、本件建物を完成させることができないため従来の営業を続けることができず、これにより収入を得る途を閉ざされたうえ、右収入を見込んで本件建築工事代金及び営業資金合計一七〇〇万円を昭和五九年四月二六日銀行から借入れ、既に利息として毎月金一一万円を支払い、昭和六〇年一月からは毎月約三〇万円を支払う予定であるところ、他に収入を得る手段もなくこれらを一切支払えない状況になった。

本件工事の出来高は約五〇パーセント程度であるが、屋根及び周囲が張られていないため、現状のまま工事を中止することにより、床や柱として立てられた材木が雨ざらしとなって使用不能となり、その結果これまで要した建築費用金六〇〇万円が全く無駄になる。しかも、申立人後藤は、工事を請負わせた申立人遠藤組から契約解除による損害賠償請求を受けかねない状況におかれることになった。

3 よって、申立人は、特別事情があるものとして、民事訴訟法七五九条により本件仮処分決定の取消を求める。

(申請の理由に対する認否)

1 申請の理由1は認める。

2 同2の特別事情が存することは否認する。

第三 疎明<省略>

理由

一  債権者金松堂が債権者三名からその所有にかかる金松堂建物を賃借し、これを使用して料理飲食店及び土産物販売店を営んでいること、債務者後藤が債務者株式会社遠藤組に請負わせて二階建の本件建物の建築工事を開始したこと、右両建物とも文化財保護法六九条により「特別名勝松島」として指定された地域に含まれ、かつ本件建物が都市公園法及び宮城県県立都市公園条例に基づいて指定された都市公園「松島公園」中都市計画決定を受けた地域内に所在すること、本件建物は棟上げが終り屋根葺工事の段階であったことは、当事者間に争いがない。

二  債権者らは、本件建物の完成により金松堂建物から松島海岸への眺望を妨げられるとして、本件建物の二階部分の建築工事の差止の仮処分を求めるが、その根拠となる被保全権利は自然的文化的環境権及び眺望権なる権利であると主張する。

しかしながら、債権者主張の自然的文化的環境権なるものは成法上存在しない。のみならず、債権者らが右環境権を認めるべき根拠として挙げる文化財保護法、自然公園法、都市公園法及び宮城県県立都市公園条例は、いずれも行政法規であって、これによって保護される利益はすべて公益であり、右各法規による規制が建築基準法のある種の規定の如く直接私法上の利益をも保護する目的でなされているものを除いては、その規制によって私人がたまたま利益を受ける場合があるとしても、その利益はいわゆる反射的利益に止り、私法上保護すべき利益とはなし得ないところ、債権者ら挙示の前記各行政法規が債権者らの松島海岸に対する眺望を直接保護しているとは到底認められないから、たとえ、法理上自然的文化的環境権なるものを法規による権利として確立すべきものと解する余地があるとしても、私法上の妨害排除請求権は私法自体にその根拠規定を置くのでなければ行使することができず、右環境権なるものによって本件工事差止の仮処分を求める余地はない。

また、債権者ら主張の眺望権なるものが成立したという私法上の事実も申請の理由において明示されていない。およそ、眺望の利益を内容として私法上の妨害排除請求権を発生させるに足りる権利は、眺望の妨害となるような建物その他の物件を構築することができる土地の所有者との間の、そのような物件を構築しないことを内容とする地上権(空中権)若しくは地役権又は右のような土地所有者若しくはその土地の使用権原を有する者との間の右同様の内容を有する債権(無論後者による妨害排除の相手方はその債務者に限られる。)であるところ、弁論の全趣旨によると債権者らがこのような権利を有していないことは明白である。債権者らの主張は、要するに、債権者金松堂が金松堂建物を使用し、名勝松島の景観眺望を生命として料理飲食店を営業しているというに過ぎず、法律上の主張として意味を有しない。

してみると、債権者らの申請は主張自体において既に失当である。

なお、付言するに、本件建物の建築につき債権者主張の行政法規違反があるとの証拠は存在せず、成立に争いのない疎乙第五号証、第六号証の一乃至四、第八乃至第二二、第二四乃至第二八号証によると、本件建物の建築につきなされた所轄行政庁の許可は適法になされたことが明らかである。

三  以上の次第であるから債権者らの本件仮処分の申請は、被保全権利についての疎明を欠くことに帰し、保証をもって疎明に代えることも相当とは認められないから、これを認容した本件仮処分決定を取消し、債権者らの本件申請を却下し、特別事情による仮処分取消申請については、右取消により目的を達し、その必要はないものと認められるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九〇条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮村素之 裁判官 水谷正俊 裁判官 小川秀樹)

別紙 目録<省略>

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